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李登輝 【講演録】2009.09.05 二、坂本竜馬の「船中八策」

 近代日本の幕開けに欠かすことの出来ない人物と言えば、まず坂本竜馬でしょう。徳川幕府の末期、倒幕、佐幕と各藩が分裂していた頃、又倒幕派も薩摩、長州という大藩が分かれていた中で、これをうまく調停して日本を戦火から救ったのは、奇才坂本竜馬でした。
 
 彼の生涯は僅か三十三年に過ぎませんでしたが、明治維新の成功に彼の遺した業績は素晴らしいものでした。 現代日本の課題を考える人々の心中にも彼の精神は生き続けています。多くの作家が違った表現で竜馬を語っています。「海を翔ける龍」、「竜馬がゆく」、「竜馬が歩く」と云われる様に、土佐藩を脱藩して勝海舟の門下に入った竜馬が暗殺されるまでの五年間に、竜馬は地球を一周するくらい、海に陸にと旅をしています。
 彼は忙しく動き回り、新しい国づくりに全身全霊を注ぎました。中でも大仕事だったのは、倒幕に対する薩長両藩の異なる意見を調整することでした。
 
 この間に彼の行った政治活動は数え切れない程多いものでしたが、中でも、「船中八策」は、彼の遺した最重要の政治的功績ではないかと思います。大政奉還への動きを促進すべく長崎から京都に上る船の中で、「国是七条」を手本に、竜馬が提示した新しい国家像、それが「船中八策」です。将軍が新しい国づくり案を理解し、幕府が政権を朝廷に返せば、内戦なしで日本は近代国家に生まれ変わる。そうした希望を託した日本の将来像「船中八策」は次のようなものでした。
 一、天下の政権を朝廷に奉還せしめ、政令宜しく朝廷より出づべき事。
 一、上下議政局を設け、議員を置きて万機を参賛せしめ、万機宜しく公議に決すべき事。
 一、有材の公卿・諸侯及天下の人材を顧問に備へ、官爵を賜ひ、宜しく従来有名無実の官を除くべき事。
 一、外国の交際広く公議を採り、新に至当の規約を立つべき事。
 一、古来の律令を折衷し、新に無窮の大典を撰定すべき事。
 一、海軍宜しく拡張すべき事。
 一、御親兵を置き、帝都を守衛せしむべき事。
 一、金銀物貨宜しく外国と平均の法を設くべき事。
 
 以上八策は、方今(ほうこん=この頃の)天下の形勢を察し、之を宇内(うだい=世界)万国に徴するに、之を捨てて他に済時(さいじ=世の中の困難を救う)の急務(=日本を急いで救うための手立ては)あるなし(=あるはずもない)。苟(いやしく)も、此(この)数策を断行せば、皇運を挽回し、国勢を拡張し、万国と並立(へいりつ)するも亦(また)敢て難しとせず。伏して願くは公明正大の道理に基き、一大英断を以て天下と更始一新(こうしいっしん)せん。
 
 この「船中八策」には、幕府と藩に代わって議会制度を持つ近代国家「日本」の実現を目指す竜馬の心がよく表れています。大政奉還がなり、朝廷の許しを得た後、竜馬は喜びのうちに、「船中八策」をもとにして、新しい政府のあり方についての新政府綱領を書き上げたと言われています。
 
 明治政府成立後に示された五箇条の御誓文や政治改革の方向は、やはり竜馬の「船中八策」に沿うものでした。


< 続き・・・>
≫≫ 三、坂本竜馬の「船中八策」に託した江口先生の私への提言
≫≫ 四、「船中八策」に託した私の日本への提言
≫≫ 五、結び

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≫≫ 一、はしがき

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